続いて光 いくつもの

2020-01-01から1年間の記事一覧

藤崎彩織『ふたご』

「恋人」では満足できない。お互いに好きなら恋人になる。でもそれを超えた好きになると、「恋人」を超えた何かになる。永遠にふたりが一つになりたい。心中をしそうな心境。これ以上一緒にい続けて究極までたどり着くと、あとは離れられないし一緒にもいら…

ジェーン・オースティン『高慢と偏見』

薄井ゆうじ氏に2作目の課題小説を提出して、講評が返ってきた。 1作目を出してから半年以上、書いては消してで上手くいかず。 数行書いては止めてを繰り返すうちに、なんとなくコレは膨らまして形に出来そうやなというものが見つかり、一応完成できた。 その…

『古事記』と『旧約聖書』

これらは似ている。今『古事記』を読んでいて、こないだ『旧約聖書』の創世記を読んだのだが。 子孫がどんどん増えていって、誰々は〇〇という地方の人々の祖先になった、みたいな描写が多い。 つまり当時の人間としては、自分はこういう系譜で生まれたんだ…

村上春樹『納屋を焼く』

英語だとburn the barnである。村上春樹はそこまで好きでないが、この作品は好きだ。 大学時代に家庭教師してた子に勧めたら気に入ってくれた。英語だとburn the barnになるというのはその子が発見してくれた。 5年ほど小説を読んできて(たかが5年だが)、一…

最近読んだ本・10月2週

目次 ・遠野遥『改良』 ・尾崎翠『「第七官界彷徨」の構図その他』 ・チェーホフ『六号室』 ・横光利一『蠅』 ・panpanya『足摺り水族館』 ・手塚治虫『ブッダ』 ・遠野遥『改良』 面白いけど、芥川賞を取る『破局』までの1年間でかなり上手くなったんだなと…

尾崎翠『尾崎翠全集』

最近、小池昌代を読み始めて、面白いなと思ってたのだがなんとなく読むのを止めてしまった。 文章の詩的なリズム、才能は間違いないのだが、「私って凄いやろ」「私の描く美しい文章を見て」的な自己満を感じた気がする。 なんかこう、心が篭ってないという…

中島敦『悟浄出世』

中島敦といえば『山月記』が有名だが、『李陵』や『狐憑』そして『悟浄出世』も面白い。 『悟浄出世』は、実存の不安・アイデンティティクライシスといったものを、パロディチックに描いている。 近代と呼ばれるもの以前は、農家の子は農家であり、人間がど…

最近こんなの読みました

・小池昌代『ことば汁』 「女房」しかまだ読んでないけど、私の持つ屈折に似たものが描かれていて面白かった。 ストーリー物があまり好きではない気がする。この本みたいに詩的な言葉で書かれた小説や、始めからストーリーが断絶してる不条理小説、事柄を羅…

メルヴィル『白鯨』

19世紀アメリカ文学の最高峰、1300ページもあるのだが、3週間掛かったが最後まで読めてしまった。世界文学の超大作に挑戦してみたのは、初めてはトルストイ『アンナカレーニナ 』で、2ヶ月くらい掛かって何とか読んだが疲れ果ててしまったのを覚えている。そ…

精読・『飼育する少年』②

私の力不足もあって、何度語ってもこの小説の魅力や意図するところが伝わらない感覚があり、また何度も新たに語りなおすことになってしまうのであるが。このような短い小説でも内容は複合的であり、20ページ分の文章を使って書かれているからには「この小説…

清岡卓行『アカシヤの大連』

元々詩人だった著者の、初めての小説である。冒頭の数行はそれこそ詩的な雰囲気があり、なんとも言えない良さがある。音楽的なリズム、などと解説に書いてあった気がする。 「夜ごと、眠っているあいだに、頭の中の奥深くでいったいどんなことが起っているの…

小池桂一『ウルトラヘヴン』

薬物でトリップしてる描写が大半という、他にないマンガである。主人公がトリップして戻って来た時、「え、今までの夢だったの!?」と読者も思わされる。そして「夢にしてはリアルだったけどなあ。本当に夢だったのか?」と、もどかしい気持ちが残る。つま…

小川国夫『相良油田』

私の手元には、小学校のころの集合写真がある。少年らしい無邪気で元気な男の子たちの中で、私は臆病そうに、しかし大人しい子たちには混ざらず、快活な子たちに合わせて背伸びをしている。 高校大学を経て、私は、自分が異性から認められるのだと知った。し…

精読・『飼育する少年』①

勉強用メモです。一部、片桐淳『開成中学入試問題の実況中継国語』、廣野由美子『批評理論入門』、佐藤正午『小説の読み書き』を参考にしている。 「塾を出て家路につくころは、もう星が出ていた。」 ・この文章を普通の人が書こうとすると、おそらく「塾を…

日野啓三「天窓のあるガレージ」

私は主人公の少年に、自分と近いものを感じて、おそらくこの短編が好きだ。俗物でありながら俗なものを忌避して、日常に「何か」が起こればと、「あちら側」の美を優先して暮らす。そして「何か」の発生を感じるとき、それは内部から起こっているのだ。具体…

「千と千尋の神隠し」

ハクとカオナシは極めて酷似した存在として描かれている、という話。某氏のブログ(全5回)を参考にして書く。そっちの方が面白いからそっちを読んで欲しい。→https://blog.goo.ne.jp/eminus/e/620607bbc9b14fb7a5045fa75fa6c052 序盤、千尋が息を止めて橋を渡…

小池桂一『ヘヴンズドア』

このマンガ短編集を強くお勧めしたい。 もっとも私はここ数年毎日のように小説や本を読んでいて、おそらく「物語脳」みたいな、本を読むのに少し特化した状態になっていると思うので、そうでない人たちがこれを読んでどう思うかは分からないのだが、、 小池…

岡田史子『ガラス玉』

私は弱虫なんだなあ、って思った。 死への情動(タナトス?)とか、ひねくれた少年の憂鬱とか、寂しさとか孤独感とか。それは家族の、繊細さへの理解のなさから来ていたりとか。 『現代マンガ選集・表現の冒険』という本がとてもおもしろくて、岡田史子「ガラ…

木村友祐『野良ビトたちの燃え上がる肖像』

短い感想を。ちょいネタバレ。 終盤の構成?が面白くて、こういう書き方もアリなのかとびっくりしたのだが。 だが、最終的に「敵」みたいな勢力の存在が明確化していく感じが、どうなのかなあと思った。社会の底辺ではないけれど、何かしら日常的に抑圧され…

佐藤正午『月の満ち欠け』

ネタバレというか、読んだ人にしか分からないことを書く。 ふーんて感じで読み終えて、少しぼうっとしてると、ふと直感があった。三角という登場人物が瑠璃と初めて出会ったとき、彼らは20歳と27歳。そして冒頭部分までページを戻ってみると、やはり最後に生…

薄井ゆうじ『くじらの降る森』

世の中に消化されたくないと思うすべての人に。 薄井ゆうじを知るきっかけは短編「飼育する少年」だった。 小説的なレベルの高さというか、メッセージ性や迫力があるのは『樹の上の草魚』と思う。 読みやすくストレスフリーに楽しめるのは『天使猫のいる部屋…

雨宮処凛『生き地獄天国』

ムチャクチャな自伝。 最近、小説よりも社会派な本を読んでるのだけど、世の中って良い人が沢山いるなあ。笑 なんだか人生ってどうにかなるんじゃないかと思えて来た。勇気が出てくる。 『この国の不寛容の果てに』という本では日本の研究者や医者、社会活動…

薄井ゆうじ『天使猫のいる部屋』

電子猫というバーチャルペットを作成した天才エンジニアの死後、彼の亡霊を求めて登場人物たちが狂っていく。 たまごっちとかの発売前に書かれた、薄井ゆうじの初長編。 時代を先取りしていると、当時は話題になったとか?(1991年) なんと言えば良いのか、私…

つげ義春「庶民御宿」

漫画です。 『紅い花』に入ってた庶民御宿っていう短編がなんか好きなんだけど、誰か共感する人いないかなあ。 自称インテリの主人公2人が何とも言えずウザくて、滑稽に描かれてるんだよな。 つげ義春で有名なのは「ねじ式」とか。 まあ悪く言うと、通ぶり…

ビッグ・イシュー

路上でホームレスや生活困窮者が販売者となり売っている雑紙である。 売れると、その半額ほどが販売者の手元に入る。 薄目で文量がちょうどよく、記事も面白い。 「居場所と出番」があることは健康にとても大切で、人々に支援だけでなく仕事を与えるビッグイ…

村上春樹『風の歌を聴け』

喪失と再生の話(らしい)。1979年の村上春樹のデビュー作。 親友の鼠は実はもう死んでいて、ジェイズバーはこちらとあちらの世界を繋ぐ場所であるとか何とか。他の人のブログで興味が湧いて、再読してみた。 まあその件は良く理解できなかった。 ただこの小説…

薄井ゆうじ『樹の上の草魚』

薄井ゆうじの代表作。すごい小説。 ペニスを失って女性になった男が主人公で、失われていく物への優しい労わりと、優しさだけでは大切なものを失ってしまうよという強さを描く。 何かの雑誌で1994年?度の小説1位に選ばれてた覚えがある。 最近、薄井ゆうじ…

コロナ

ウィルスが流行してる。 新しい技術は何らかの痛みを伴って手に入れてきたものだから、こういう時こそ良いように用いられるといいな。 正社員でコロナの影響は受けてないから、なるべく募金するようにした。 お金が無いとどうしようもないこともあるし。 も…

宮脇俊文『『グレート・ギャツビー』の世界 ダークブルーの夢』 を読んでから「夢」というよくわからないものによく思い当たる。 幸せとは最上の瞬間のことではないのだ、と昨日私は気づいた。 安岡章太郎『ガラスの靴』についての村上春樹の文章。 主人公は…

河井寛次郎「部落の総体」

何も知らずにこんな美しい村に住まっているという事自体、これ以上に素晴らしい事はない筈だから。 美しい物に隠れている背後のものを求めて。 河井寛次郎が感銘を受けた、「個々の集りが全体だという感じよりは、全体があって個々だという方の思いが先に立…