続いて光 いくつもの

薄井ゆうじ『天使猫のいる部屋』

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電子猫というバーチャルペットを作成した天才エンジニアの死後、彼の亡霊を求めて登場人物たちが狂っていく。

 

たまごっちとかの発売前に書かれた、薄井ゆうじの初長編。

時代を先取りしていると、当時は話題になったとか?(1991年)

 

なんと言えば良いのか、私はこの小説が好きだ。

そして薄井ゆうじの初長編がこの小説であったことに、意外な気持ちがする。

 

長編の2作目『くじらの降る森』、3作目『樹の上の草魚』はとてもクオリティが高い。

その後に読んだから、1作目『天使猫のいる部屋』はのちの作品に繋がっていくような、過渡期的なものを想像していた。

 

しかしこれはかなり独自の、その後の薄井ゆうじ作品にも無い魅力を持って独立している作品だったのだ。

 

巨漢のエンジニアに、男主人公、あとは女性が2人。

割と紋切り型の、キャラクター的な登場人物たち。

 

この小説の魅力として、ノベルゲームっぽいのかな、というのが一つ直感としてある。

シュタインズゲート」とか「EVER17」とか、会話文を読んでいくタイプのゲーム。あれに近い気がする。

ストーリーのテンポ重視で、あまり細かい描写は省かれている。キャラクター的な登場人物たちがいて、ちょっと突飛なストーリー展開やメンヘラ要素がある(?)

 

終盤の展開はアニメ「シャーロット」を少し彷彿とさせる。

 

いやしかし…

この『天使猫のいる部屋』はかなり独自の作品な気がする。

 

突飛なストーリー展開なんか、まあラノベとか読めば幾つか面白いものがありそうだ。

でもこれは薄井ゆうじという、ちゃんとした硬派な文章を書ける作家が書いており(ラノベの文体はそれはそれでだけど、私は昔ながらの文体の方が好きなのだ)

キャラクターの雰囲気も丁度良い(ラノベのキャラクターは大体うんざりしてしまうし、でもラノベテイストのあるキャラ造形は好きなのだ)

 

とにかく私にとって、痒い所に手の届く作品だ。

「こういうの好きだけど、ここまでされると嫌なんだよね」みたいな我儘を、あらゆる軸で丁度叶えてくれる。

 

それは薄井ゆうじ作品全般に言えることでもある。

硬派な度合いと、読み易くシンプルに面白いという度合いとがバッチリだ。

 

『天使猫のいる部屋』が好きならこれも好きなのではないか、薄井ゆうじが好きならこれも好きなのではないか、という持論を持つ人がいれば嬉しいのだが、そんな人はいるんだろうか。

 

私はまだそんなに本を読めている訳じゃない。

またそのうち、痒い所に手が届くような作家が見つかればいいのだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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