フィリップ・スーポー『流れのままに』
HSPという言葉を最近よく聞く。
Highly Sensitive Personで敏感な人。
さらにHSS型HSPというのがいて、刺激を求める癖に人一倍敏感な人。
そういうタイプの人はこう考えると生きやすくなるよ、という情報になるほどと思ったりもするのだ。
こうした道具的な(人生の「役に立つ」ための)フレームワークで納得し切れる人は、それでいい。
それに越したことはない。
でも私なんかは、もう少し考えすぎてしまうみたいだ。
古本屋で『流れのままに』を無意識に手に取って文字に目を落としていく。
ほんの数分で予感がする。
この小説はフレームワークなんかよりも深く、より個人的な範囲で私の思考を掬ってくれるだろうと。
小説(文学)はわざわざ関わろうとするものではない気がする。
やむを得ない、最後のセーフティネットのようなもの。
だけど、小説のもつ力というか、やはりフレームワークでは足らんなというのを久々に感じた。
偶然手に取ったこのマイナーな本とは、まだ読み返して対話を続けていくだろう。
一つの場所に安住することができない人間の心理を描いたこの小説は、今の時代にもっと目立っていてもいい気がした。
日本でも競争化社会が進んで、不安をかき立てられている。
そんな時代に生きている肌感覚として、この小説に描かれている心理はかなり現代に普遍的だと思った。
私はこの小説を通じて自分や他者の心理への洞察を深めつつ、「根源的な安心感」に立ち返るようにしたい。
追記
第一次大戦後が舞台になっている。欧米では第二次大戦よりも第一次の方が衝撃が大きかったという定説がある。社会に不安が満ちていた時代だったはずだ。その点でも、社会に不安がはびこっている時代に、共感をもって読まれる小説なのではと思う。