続いて光 いくつもの

山田詠美『晩年の子供』

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すごく面白い本だった。すべての短編がどこかで繋がっていて、ひとつの世界観になっている。

 

一番感じたのは、著者のすべてを見透かしたような、物悲しくて空恐ろしい、恋と人生に対する眼差し・洞察だった。

 

「花火」での、清らかな恋とか言ってるものこそ肉欲で、身体の関係に飽きてしまったあとの思いやりこそが本当の愛だ、といった言葉が重みがあって、すごい説得力だった。

 

シンプルな読みやすい文章で、こうして味わい深いものが書けるのは稀有だと思った。

 

少し宗教的でもあった。

「晩年の子供」では、世界はひとつなんだ、といった感覚がある。「ひよこの眼」には時間を超越する諦観がある。

 

道ばたにある小石をすら愛し、この世のすべてのことを許す。

小川国夫「相良油田」の一節を思い出す。

 

「苦しまぎれに彼の気持は、脈絡を失ってさまよい出て行ったのだろうか、いつもなら、そういうものとしてしか見ない、おびただしい数の石ころが、なにか途方もない間違いとして眼に映った。」

 

そのとき、死者も同じ世界のいわば仲間みたいになる。それが宮内勝典『南風』にあった世界観。

そして『南風』で述べたように、それは薄井ゆうじ「飼育する少年」の世界に繋がりつつある。